【失敗を喜ぶ】
"失敗"という言葉について考えてみると、多くの人は「失敗は成功のもと」ということわざを思い浮かべるのではないでしょうか。
失敗することによってやり方を改めることができ、かえってその後の成功につながるという意味から、落ち込んでいる人を慰めたり、次の一手を考えたりするときに使う言葉ですね。
その例として有名なのがエジソンのエピソードです。
発明王エジソンは電球を発明するまでに約16000回の失敗をしたといわれています。
そのことについて、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ」と言ってのけるあたりにエジソンの心の強さがうかがえます。
このように、成功と失敗をセットで考えることができると、小さな失敗は歓迎すべきものと捉えることができます。
しかし、私たちの周囲に目を向けてみると、大人の世界でも子どもの世界でも失敗をすることで叱られたり、罰を与えられたりすることがたくさんあります。
そのことが、失敗はマイナスであるという意識を強くしてしまい、人の可能性を固い殻の中に閉じ込めてしまうことになります。
特に気をつけなければならないのが、「失敗に対して罰則で応える」ということです。
罰というのは当然、本人にとって喜ばしいことではありません。
ですから、罰を与えることで相手に一時的な反省を促すことはできます。
ところがその後、罰を与えられた側に強く残るのは、「罰はいや」だという感情です。
すると、その人は失敗を避けるようになり、新しい物事に挑戦しなくなったり、失敗を隠すようになったりします。
ときには、このことがさらに大きな失敗を生み出す原因になることもあります。
そのエピソードとして、2005年にJR福知山線で脱線事故が挙げられます。
これは、運転士が過去に受けた"懲罰に近い教育"を避けるために、遅れた時間を取り戻そうとスピードを出しすぎたのが原因ともいわれています。
もし、この運転士が過去に失敗したときに、懲罰ではなく、本人の目の前が明るくなるような対策のための指導を受けていれば、この事故は防げたかもしれません。
失敗をしたときに大切なのは、罰を与えることでも、「なにやってるの!」と叱ることでもありません。
当人と周りが一緒になって「どうして失敗したんだろう」「次はこうしよう」と考えることです。
これが教育です。
教育とは、失敗しない方法を学ぶことではありません。
多くの失敗をし、その失敗の中から知識や経験を得ることです。
新しいことが出てきたら、「失敗したらどうするの」なんて言わなくていいのです。
失敗したら一緒に考えればいいのです。
どんどん挑戦し、次々と考えていく。
前向きな思考力をお子さんと共に作り上げて
いきましょう。
エジソンは、元々優秀だったから発明王になったのではありません。
今でいう、LD(学習障がい)やADHD(注意欠陥多動性障がい)であったといわれ、学校からも父親からも見放されていました。
それでも母親だけは、知りたがりのエジソンが理解するまで徹底的に教え続けました。
そんな母の愛情がエジソンの好奇心を育てていったからこそ、発明王としての基盤ができていったのです。
子どもにとって、親の理解は何よりのエネルギー源となります。
失敗を共に喜び、わくわくしながら次の手を考えていきたいものです。
【目標設定の落とし穴】
『目標を持って行動しましょう。』
『こだわりを捨てずにやりきりましょう。』
何か物事に取り組むとき、どちらも大切なことでしょう。
このときに気をつけなければならないのは、
完璧主義にはならないと
いうことです。
完璧主義とは、自分なりの最高峰の理想を追い求めることをいいます。
テストであれば、90点では満足せずに100点でないとだめ、運動会では一等賞以外はだめ、というような具合です。
精神医学では、精神疾患のひとつともされているこの完璧主義ですが、どのような人でも、これに近い考えを持っているものです。
たとえば、失敗や間違えることに対して、強い抵抗を覚える子がいます。
間違えることが嫌だから、学校で習っていない問題には挑戦しないとか、学校の飯ごう炊飯でカレーライスを作るとき、やったことがないので見ているだけという子はめずらしくありません。
これらは、"完成された状態"をよしとする完璧主義の手前の段階の、"失敗しない状態"をよしとする「かくれ完璧主義」というような状態です。
このような子にまず必要なのは"自信"です。
自分はできるという思い込みや、失敗しても何とかなるという安心感が必要です。
この思いが、新しい物事に挑戦する意欲を生み出していくのです。
では、自信をつけるにはどうすればいいのでしょうか。
それは、自分が簡単にできそうなことを、こつこつと積み上げて行くことで、自分を褒める機会を増やせばいいのです。
別の例で考えてみましょう。
たとえば、毎日食後におやつを食べることが習慣になっている人がいるとします。
この人が、ダイエットをしたいと思ったとき、
①食べてしまったおやつの量を記録する
②食べなかった(残った)おやつの量を記録する
どちらの方が、成功する可能性が高いでしょうか。
①の場合、おやつを食べるたびに、「また食べてしまった」「私は意志が弱い」といったマイナスのセルフイメージが強化されていくことになります。
結果、そのイメージにあわせるように、自然とダイエットも続かなくなっていきます。
②の場合、おやつを1つ残すたびに、
「今日はこれだけ我慢できた」
「続ければやせるかも」
といったプラスのセルフイメージを強化することになります。
このように、「簡単にできることで自分を褒め続けること」は、自分に小さな自信を与え、それがモチベーションとなって、最終的な目標達成につながりやすくなります。
ポイントは、「誰でもできるような小さながんばりを認める」ということです。
高すぎる目標は、達成できなかったときにそれがストレスとなり、かえって自己イメージを下げることになります。
学校の勉強をするにしても同じです。
最終的な目標はテストで100点を取ることだとしても、まずは60点、次に70点というように、自分にあった、できそうな目標から挑戦すれば良いのです。
点数では目標が立てにくいときは、何分以内に問題が解けたとか、前回よりも計画的に勉強を進めることができた、といった簡単な目標や、自分を前向きに評価できることを探すことが大切です。
この小さな積み重ねが、その子の"自信"となり、その自信の積み重ねが、失敗をおそれずに挑戦する意欲や失敗から学ぶ姿勢を作り上げていくのです。
子どもが自分自身で「できた」と思えるようになるために、まずは私たち大人が、その子が「できた」と思える部分を探してあげると良いでしょう。
子どもたちは、自然とその考え方を真似して、自分自身の良いところを探していけるようになっていってくれるはずです。